高松高等裁判所 昭和45年(ラ)27号 決定
〔主文〕原審判中主文第一、二項を取消す。相手方の本件申立を却下する。
〔理由〕<中略>原審および当審における事実調査の結果によると、つぎの如き事実を認めることができる。すなわち、
(一) 抗告人と相手方とは、昭和四一年一〇月一一日協議離婚し、右両名間の長女である事件本人清子(昭和三七年二月一二日生)、二女なつ子(同四〇年七月八日生)の親権者を抗告人と定め、抗告人が監護養育していたが、その後抗告人と相手方とは仲直りをして昭和四三年一一月頃から事実上の夫婦生活(内縁関係)にはいり、親子四人が一緒に生活していたこと、ところが昭和四四年一一月初旬頃右抗告人らは再び喧嘩をして別居するようになり、それ以来事件本人は約四カ月間相手方の許で養育され、一応母親である相手方になついていたが、昭和四五年三月二二日頃、抗告人が相手方の承諾を得ないまま強引にいやがる事件本人を抗告人の許に引きとり、以後現在まで抗告人方で監護養育していること、
(二) つぎに、抗告人方は、現在その両親と抗告人らの長女である事件本人、二女なつ子と抗告人の五人暮しであるところ、その住居は敷地約一四〇坪(462.80平方メートル)、家屋は約二八坪(92.56平方メートル)で、八畳、六畳、四畳半の三部屋の外、約三畳の台所があつて、住宅としては一応右五人のものが住むに十分であるし、また抗告人は現在○○公社に勤務しており、昭和四五年九月当時における月収は手取り約金五万三、〇〇〇円で、その外に○○公社を停年退職した実父の年金(約金四三万円)等を合わせれば、その生活に困るようなことはなく、事件本人を監護養育するに十分な経済力があること、
(三) また、抗告人は、○○公社に勤務のため通常は午前七時半頃出勤し午後五時四〇分頃帰宅しており、その間は家庭を不在にしているが、右抗告人の不在中は、抗告人の両親、殊に実母が家庭にあつて、事件本人の身の廻りその他の面倒をみている外、抗告人も休日その他勤務を終えて在宅しているときには、事件本人の躾や教育その他の面倒をみており、事件本人の督護養育に問題となるような不都合な点はないこと、そして抗告人は、事件本人を引きとつて以来愛情をもつて督護養育しており、事件本人も当初は抗告人を嫌つていたが、その後日が経つにつれて次第に抗告人になつくようになり、現在では毎朝通学するときには、出勤する抗告人と一緒に近くのバス停留所まで行つているような状況であるし、抗告人の両親、殊に実母も事件本人を可愛がつており、事件本人は現在抗告人の許で一応落着いた生活を送つていること、さらに抗告人方から現在事件本人が通学している小学校は比較的通学に便利であり、最近では学校における友人等もできてその学校生活も落着いていること、以上の如き事情の下にあつて、現在では事件本人自身父親である抗告人の許で引続き監護養育されることを望んでおり、母親である相手方に引きとられることは望んでいないこと、
(四) 一方、相手方も現在○○公社に勤めており、その月収は昭和四五年九月当時で約五万二、八〇〇円であるから、今後事件本人を引きとつて監護養育するようになつても経済的には困らない状況にはあるが、相手方は肩書住居地に一人で借家住いをしているし、またその勤務はいわゆる六番勤務といつて、早出は午前八時から午後三時三〇分までの場合、午前八時三〇分から午後四時三〇分までの場合、午前八時五五分から午後五時までの場合があり、その外に六日に一度の割合で夜勤として午後一時五〇分から午後八時五〇分までの勤務と夜から翌朝にかけての勤務並びに休日があり、右相手方の勤務中はその家庭には誰もいないことになること、したがつて現在小学校四年生の事件本人が相手方に引きとられれば、学校から帰つた後は、相手方が帰宅するまで事件本人が一人で過ごすことになり、未だ小学生である事件本人の監護養育上好ましくない状態になるし、さらには、前記の如く事件本人が折角慣れて落着いてきた小学校も転校しなければならないことになること、
(五) もつとも、相手方は、勤務時間については職場の上司に頼んで昼間のみの勤務になるようにして貰い、また相手方が勤務のため不在中は、相手方の実母や姉に事件本人の面倒をみて貰うようにすると述べているが、相手方の勤務時間が今後たやすく相手方の希望どおり変更され得るかどうかは不明であるし、相手方から実母および姉のところまでは歩いて約二五分もかかる上、その実母も既に七四歳でかなり老齢であること等からすれば、相手方の不在中、果して相手方の実母や姉が事件本人を十分監護養育ができるかどうかは疑問であること、
以上の如き事実が認められ、他に右認定を左右するに足る資料はない。
しかして、親権者を変更するか否かは、子供の意思はもとより、親子間の愛情やその他一切の事情を斟酌し、もつぱら子の利益を主眼として判断すべきところ、前記認定の如き諸事情からすれば、原審判のなされた昭和四五年五月二七日当時においてはともかく、現在においては、事件本人の利益の点からみて、親権者を抗告人から相手方に更変する必要はないものというべく、また事件本人を抗告人から相手方に引渡すことは相当でないといわなければならない。
よつて、右親権者の変更を求める相手方の申立を認容して抗告人に事件本人の引渡を命じた原審判は不当であるから、家事審判規則一九条二項を適用して原審判中主文第一、二項を取消して申立人の本件申立を却下し、なお、原審判中事件本人の引渡を求める抗告人の申立を却下した部分については、本件抗告の不服申立の対象にはなつていないと解せられるので、右の点については判断しないこととし、主文のとおり決定する。
(合田得太郎 谷本益繁 後藤勇)